<プレ創刊号>
リーデルクランツOB会事務局の矢澤です。
夏もそろそろ終わろうとしていますが、みなさんいかがお過ごしでしょうか。
来月の4日(日)は44定の練習初日、そしてOB総会となります。そこで、昨年と同じようにメールマガジン型式で定演の情報を配信していくことにしました。しかし、「リーデルクランツ通信」は有志による43定限定として刊行したため、既に廃刊となっています。
OB会幹事の人たちに誌名を相談したところ、川島さんから、「今年は團伊玖磨『パイプのけむり』に因んで、『続 リーデルクランツ通信』というのは如何でしょう?」というご提案をいただきました。私もいくつか考えていたのですが「筑後川」の作曲者である團伊玖磨がらみっていいですよね。
即採用と思いましたが、初練習まではプレ創刊号とし、初練習後に正式創刊にしようと思います。
新しい誌名をご提案いただける方がいらっしゃいましたら、ぜひご連絡ください。
さて、川島さんより合同曲「筑後川」の分析原稿をいただきました。
かなり、長文です。
混声合唱組曲「筑後川」分析
昨年11月の大感動の嵐だった定演から早や9か月。久しぶりの投稿であります。ご承知の通り、来る9月4日にはOB会総会に先行して年末の第44回定期演奏会に向けた現役・OB合同練習が始まる訳ですが、これに向けて多少なりとも勢いを付けたいと思いましてPCを叩き始めた次第です。
今回の合同ステージでは「筑後川」を歌う事になりました。皆様良くご承知の懐かしい曲であるとは思いますが、私自身、実に久しぶりに楽譜に目を通した次第で有りまして、そうしますと結構、気付かなかった(或いは忘却の彼方の?)フレーズなんぞが散見され、これは一回(と言わず)真面目に復習しておくべきであるな〜と感じます。考えてみたら前回この曲を歌ったのは私が大学2年の時の虹の会。時は1977年、昭和52年、勿論20世紀。34年前と言う事になります!「昔取った杵柄」を広辞苑で検索しますと・・・過去に鍛えた腕前。昔、修練した技量・・・と出てきますが、さすがに34年も経ちますと「腕前」も「技量」も消え去ると言う事になります。と言う事で、早速、楽譜の方に・・・。
まずこの曲は全曲、固定ド、つまりハ長調+臨時記号で記譜されております。移動ド+相対音感の私にとっては実にいやらしい楽譜であります。個人的にはどうしても調性分析しないと曲がアタマに入ってこない!例えばト長調の主和音が「ソシレ」なんて〜のはアタマが混乱する。主和音はナニ長調であろうと「ドミソ」じゃ〜ないと許せない。ついでに・・・有名な「サウンド・オブ・ミュージック」の「ドレミの歌」。ハ長調ですとソプラノやテノールには低過ぎる音域になります。多分、変ホ長調(Es Dur)くらいが歌いやすいと思いますが、そうすると日本語の歌詞は・・・「ミィフラット〜はミィ〜カン〜のミィフラット〜」とかで始めるんですかね?舌噛んじゃいますね。
イヤミは止めにして、分析してみましょう。
第1楽章 「みなかみ」(ト長調)
ト長調のパートソロ4声によるカノン風の曲調で開始されます。5小節(開始の8分音符のみの不完全小節を数えないで)のところで、長二度うえのイ長調に転調します。ここ、結構難しいですね。後述する久留米音協は、直後に奏されるピアノの分散和音と合唱の音程が微妙にズレてますし、日本アカデミーに至ってはライブでもないのに相当派手に外しております。流石に我が(?)東混はバッチリ決めてる・・・って、当たり前ですよね。リーデルクランツはヘマらないように頑張りましょう。
このピアノの分散和音は湧き出す水を表しているいるように聴こえます。また8小節(以下同)からのピアノは木々から滴り落ちる朝露・・・かな?イ長調を維持しながら、女声合唱で朝の山の爽やかさを表現。このあたり、繊細に行きたいですね。男声も加わり徐々にクレッシェンドし、前半のクライマックス、「天へ続く緑の階段」に連なります。
これに続くピアノの間奏(18小節)で下属調のニ長調に転調。「阿蘇外輪の春」が爽やかに響きます・・・。って言うか、あくまで爽やかに歌いませんとね!息の流れを意識して、力強くもレガートに。ガナッてしまってはぶち壊し・・・って、まだ練習前ですしアツくなるのは時期尚早・・・。
私が指揮する訳でもありませんからあまり勝手な解釈は慎み・・・ま・・・す・・・・・・。曲は27小節から軽快なワルツに。ここで更にニ長調の下属調であるト長調、つまり最初の調に戻ります。
このあたり、若々しく爽やかに!「はしりだすはしりだす」の16分音符は軽快に!65小節の「獣の白い骨を・・・」で短三度上がった変ロ長調に転調。これはインパクトが有ります。87小節のピアノの和音は短三度下がった(つまり元に戻った)ト長調の主和音。このあとの「さあ」の連続は和声的には経過部分で、99小節「未知の国々への・・・」のGrandiosoで安定したト長調となって完全終止しますので、楽章冒頭に帰結すると言う構造が見て取れます。
第2楽章 「ダムにて」(変ホ長調)
この楽章は変化に富んでますね。開始部分は変ホ長調で渓流の速い流れを表現。リズム乗り遅れそうな予感が・・・特に男声・・・。
19小節で属調の変ロ長調に転調して変化をつけるとともにクレッシェンドで盛り上がりを見せます。で、29小節で変ホ長調に戻って間髪を入れず、32小節で、属調の変ロ長調に転調するかに見せかけて、34小節で、唐突にピアノのGes音が響き、経過部分(変ト長調?)を経てヘ短調に転調します。このあたり、音取りに苦労するかも・・・。「懐メロ」だと言ってなめちゃ〜いけませんな。
この後、39小節で変ロ長調に転調。ピアノの3連譜に導かれてテノールソロの登場。「川よ〜」、これは神の声なんですかね。神の啓示を受ける「川」は人間自身を表象している・・・と。歌詞から考えても、ソロと、これに続く合唱は同様に神の声でしょうから、神々しく高潔に、且つ神の愛、つまりアガペーを表現する必要ありです。えらいこっちゃ!その神の啓示を受けた直後の53小節「不屈の決意をした青年です!」は変ホ長調に転調。ここは多少荒削りでも力強く若々しく歌う。日常に疲れたオッサンの顔はヒタスラ隠す!
で、直後の58小節「見よ!」の部分は変ロ長調に転調。続く「水面に映したくれないの雲」は一転して一点の曇りも無く(ダジャレじゃありませんよ!)レガートで、音程も発声も超安定させる必要があります。この対比が面白いのかも。
これに続く63小節アウフタクトからのメゾソプラノのソロは変ホ長調。めまぐるしく転調しますが、属調、下属調の関係ですので違和感はありません。この後、72小節から同じ変ホ長調のままでピアノ伴奏に冒頭の渓流の主題が回帰しますが、合唱には「川は、川は、大きな川は・・・」と言う新たな主題(メロディー)が登場し、「筑後平野の百万の生活の中へ・・・」のコーダを迎えます。これが最終楽章に再帰する事は良くご存じの通りです。
第3楽章 「銀の魚」(ト長調)
ト長調の静謐な無伴奏合唱で開始される美しい楽章です。歌詞は「静かに」ですが、単に「ピアノ=弱く」と言うだけでは足らなくて、発声、音程の安定感が絶対に必要と思います。8小節の「逞しい胸板」と18小節の「清らかなうなじ」とが対照的に登場しますが、音楽的にどう扱うか?ある程度のコントラストは必要でしょうが、やり過ぎると安っぽくなりそう・・・。
曲はこの後、20小節から23小節のピアノ間奏部分で属調のニ長調に爽やかに転調して彩りを変えます。楽譜指定はありませんが、24小節の合唱部分から多少テンポを速めることになるのでしょうか?東混はほぼイン・テンポ。久留米音協は極端にテンポを速めます。と言うか、その前のテンポが遅すぎ。この演奏は「やり過ぎ」と私は感じます。
いずれにしても「筑後川」全曲を通じて最も耽美的な音響世界を形成する部分です。美しい発声で臨みましょう!
曲は32小節から平行調のロ短調に傾斜し、短調の美しい響きを現出します。ここでの短調は「悲しみ」では無く「情の深さ」を表現したものと感じます。或いは甘さの中に塩を一振りすることで味の深みを出すと言う演出?で、39小節でもとのニ長調に戻ったすぐあと、42小節でニ長調の下属調であるト長調に転調。このあたりは平行調と下属調の関係ですので、転調とは言っても非常に穏やか、かつ滑らかで、この楽章は静謐に閉じます。
繰り返しになりますが、息の流れを意識して、フォルテであっても美しい響きを踏み外さない、そう言う発声が是非とも必要です。
ところで「深い心の生きの良い魚」なんているんですかね?映画の「ディープブルー・シー」では高い知能を有したサメが登場しますが、こんな魚を獲っちゃ〜マズイんじゃ〜ありませんか?とか疑問を感じるのは私だけでしょうか?
第4楽章 「川の祭」(ホ短調)
ホ短調のこの曲は民謡調です。ですので、所謂「ヨナ抜き音階」、或いは「陰旋法」かと思いきや、普通の「7音音階」です。それどころか、カノン有り(7小節〜10小節)、フーガ(正確にはフガート)あり(25小節〜32小節)で、意外や、なかなか凝った構造なっております。
一番と二番の末尾「どぉ〜」と「ぱぁ〜」には譜面上、下降グリッサンドが指定されてますが、下記のCD演奏のうち、日本アカデミー版ではマルカートで終止し、グリッサンドは掛けられておりません。同CDは3種の中で最も古い1970年の録音ですので、楽譜自体、古いバージョンではグリッサンドが無かったのかな〜と思い、さる方に古い楽譜を確認して頂きましたが、グリッサンドは有るそうです。團伊玖磨は昨年の佐藤眞とは違って改訂魔ではなかったようです。
17小節〜18小節にかけて半音的に進行するものの、民謡風なだけあって、この楽章は総じて冒頭のホ短調がキープされます。この曲はノリ良く、歌いましょう!
第5楽章 「河口」(変ホ長調)
私が初めてこの曲を聴いたのは中学生時代のNHK合唱コンクールで優勝した都立目黒高校の自由曲としてでした。何て良い曲なんだろう・・・と感じ、FM放送をエアチェックしたオープンリールのテープを繰り返し聴いた記憶が有ります。40年前の話です。因みに当時、既にカセットテープはありましたが、性能的に不満だったので、私はオープンリールを使用しておりました。
昔話は兎も角、冒頭部分が二回繰り返された後、9小節で(開始の不完全小節と繰り返しを除いて)平行調のハ短調に転調し、一気に曲調が変わります。テノールのFが飛び出さないように要注意です。
この後、曲は平行調同士にあたるハ短調と変ホ長調の間を行き来しながら、別れの感傷を徐々に断ち切り、32小節(同)アウフタクトから安定した変ホ長調のクライマックス、「筑後平野の百万の生活の幸を・・・」のフレーズに至ります。この旋律は第二楽章の再来で、日本アカデミー版CDのライナーノートで指揮者の福永陽一郎氏がこき下ろしておられますが、川の成長(=人の成長)に合せて、曲調は遥かにスケール感が大きくなっており、同じ旋律を用いながら、かなり異なった音楽世界を実現してると言えます。
また、同じ音楽要素を複数個所に活用することで、全曲の統一性を持たせると言う作曲手法はクラシック音楽では良くある事で、蔑むべき行為とは私は思いません。問題はこの部分、フォルテの連続で盛り上がりっぱなしと言う事でしょうか。昨年の「土の歌」に比べれば曲数が少ないこともあり、スタミナ切れのリスクは少ないとは思いますが、着実に老化が進行している我が声帯を考えると・・・・・・。
さて、既に既出の文章で何回か登場しましたが、リーデルクランツOB会ホームページに紹介されている下記のCDについて、若干ご説明致します。
1)山田和樹指揮 東京混声合唱団 東京交響楽団
2010年3月
2)本間四郎指揮 久留米音協合唱団 中島政裕(ピアノ)
1981年4月
3)福永陽一郎指揮 日本アカデミー合唱団 三浦洋一(ピアノ)
1970年
1)は昨年の3月、東京オペラシティーに於けるライブ録音で、当日、会場でお聴きになった方もおられるかと思います。昨年ご紹介した「土の歌」とセットになったCDです。マイクと音源(つまり合唱とオーケストラ)との距離を取った録音で、美しいホールの響きを大めに取り入れたとても良い録音なのですが、オーケストラ版であることを含め、パート毎の聴き取り用としては少々辛い(つまり全体が一体化した音の塊になっている)かも知れません。ですが音楽的には最高です。合唱は他のCDとは別格です。志村ご夫妻のソロも拝聴できます。「河口」では若干アンサンブルが乱れる部分がありますが、これは「弘法も筆の誤り」と言う事で・・・。ライブですし。
2)と3)は一枚のCDに収録されてます。2)は「筑後川」を委嘱初演した合唱団で、團伊玖磨と深い関わりを持つメンバーですから、作曲者の考えを推し測る上で一聴の価値ありと思います。ちょっと発声が浅い感じがしたり、特にソプラノの高音部分でボロが出たりしますが、なかなか聴かせます。
3)の「日本アカデミー合唱団」の実態は京都エコーのようです。同団は浅井敬壹氏の薫陶を受けた名門合唱団で、その浅井氏の師匠が福永陽一郎氏と言うことだそうです。で、演奏の方ですが、ビブラートが強く、発声も表現もダイナミック。良く言えばオペラの合唱を聴いているよう。伴奏のピアノも名手、三浦洋一氏でありますが、調律整音してないようで、これまた良く言えば華やか、悪く言えば大暴れ。前述の第一楽章音程大はずしを含めて、凄いCDがあるもんだ・・・ってーところです。まあ、面白いと言えば面白いです。
混声合唱組曲 筑後川 (楽譜) |
佐藤眞:「土の歌」 團伊玖磨:「筑後川」 武満徹:「うた」より 木下牧子:「鴎」 (志村先生出演)
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團伊玖磨「筑後川」 | 佐藤 眞:「土の歌」 團 伊玖磨:「筑後川」 木下 牧子:「鴎」 武満 徹:「うた」より MP3ファイル
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44定初回練習とOB総会
9月4日(日)
練習:13:00〜16:00
場所:武蔵大学10号館3階ホール
総会:16:30〜18:30
会 場:武蔵大学8号館8階 50周年記念ホール
会 費:2000円
議 題:1) 2010年度会計報告と2011年度予算提案
2) 幹事会人事提案
3) 第44回定期演奏会OB合同ステージについて 他
*総会に引続き、レセプションを開催致します。
参加申し込み用URL(総会定演共用です)
当日直接ご来臨頂きましても大歓迎です。
連絡をいただいた参加者はOB会ホームページ会員専用ページに掲載してい
ます。
http://www.liederkranz.jp/limit/index.html
■編集後記
ホームページに筑後川楽譜リンクを掲載していながら、先週やっとをアマゾンにアクセスしました。すると在庫が無いらしく、届くのが早くて8月31日とのこと、「これはやばい!」と思い、アマゾン内で検索すると中古品販売がヒット。数社が出店していて直ぐ配達されるとのこと。商品の評価も書かれており、商品状態が「良い」とされている会社のものは1500円。「非常に良い」の会社のものが1300円。当然1300円の方を注文しました。
「非常に良いということはほぼ新品だろう。しかも安くゲットできたぜ」と得した期分に浸っていたのですが…。
2日後、届いた箱を開けたら、なんと30年前と同じ昔の装丁の筑後川の楽譜が入っていたのです。なんかかちょっとがっかりorz。
そして裏表紙には「中古品(非常に良い)」と書かれたシールが直接貼ってあったのです。シールを付けたままにしてあります。
TongSing